これに広告を貼《は》り附けるのである。赤や青や黄な紙に、大きい文字だの、あらい筆使いの画だのを書いて、新らしく開《あ》けた店の広告、それから芝居見せものなどの興行の広告をするのである。勿論柱はただ一本だけであって、これに張るのと、大門町の石垣に張る位より外《ほか》に、広告の必要はない土地なのだから、印刷したものより書いたものの方が多い。画だっても、巴里《パリ》の町で見る affiche《アフィッシュ》 のように気の利いたのはない。しかし兎《と》に角《かく》広告柱があるだけはえらい。これが一つ。
 今一つが伝便なのである。Heinrich《ハインリヒ》 von《フォン》 Stephan《ステファン》 が警察国に生れて、巧に郵便の網を天下に布《し》いてから、手紙の往復に不便はないはずではあるが、それは日を以て算し月を以て算する用弁の事である。一日の間の時を以て算する用弁を達するには、郵便は間に合わない。Rendez《ランデ》−vous《ヴウ》 をしたって、明日《あす》何処《どこ》で逢《あ》おうなら、郵便で用が足る。しかし性急な変で、今晩|何処《どこ》で逢《あ》おうとなっては、郵便は駄目であ
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