しき》町の通を旦過橋《たんかばし》の方へ行く途中で、また古本屋の店を見ると、同じ大智度論が一山ここにも積み畳ねてある。その外|法苑珠林《ほうおんじゅりん》だの何だのと、色々あるのです。大智度論も二軒のを合せると全部になりそうなのですな。」
主人は口を挟んだ。「それじゃあわざと端本にして分けて売ったのでしょう。」
「お察しの通りです。どこから出たということも大概分かっています。どうかすると調べたくなる事もある本ではあるし、端本にして置けば、反古にしてしまわれるのは極《き》まっていますから、いかにも惜しゅうございますので、東禅寺の和尚に話して買うて置いて貰うことにして来ました。跡に残っている本のうちには、何か御覧になるようなものもあろうかと思いましたので一寸《ちょっと》お知らせに参りました。」
「それは難有《ありがと》う。明日《あした》役所から帰る時にでも廻って見ましょう。さあ。饂飩が冷えます。」
寧国寺さんは饂飩を食べるのである。暫くすると、竹が「お代りは」と云って出て来た。そしてお代りを持って来るのを待って、主人は竹を呼び留めた。
「少しこの辺《へん》を片附けて、お茶を入れて、馬関
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