たから、所有権を尊重していない。これも危険である。それにあの男の作は癲癇《てんかん》病《や》みの譫語《うわこと》に過ぎない。Gorki《ゴルキイ》 は放浪生活にあこがれた作ばかりをしていて、社会の秩序を踏み附けている。これも危険である。それに実生活の上でも、籍を社会党に置いている。Artzibaschew《アルチバシエフ》 は個人主義の元祖 Stirner《スチルネル》 を崇拝していて、革命家を主人公にした小説を多く出す。これも危険である。それに肺病で体が悪くなって、精神までが変調を来している。
フランスとベルジックとの文学で、Maupassant《モオパッサン》 の書いたものには、毒を以て毒を制するトルストイ伯の評のとおりに、なんのために書いたのだという趣意がない。無理想で、amoral《アモラル》 である。狙《ねら》わずに鉄砲を打つほど危険な事はない。あの男はとうとう追躡《ついじょう》妄想で自殺してしまった。Maeterlinck《マアテルリンク》 は Monna《モンナ》 Vanna《ワンナ》 のような奸通劇《かんつうげき》を書く。危険極まる。
イタリアの文学で、D'Annu
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