ている。
 主人はわざと間を置いて、二人を等分に見て話し続けた。
「ところがその人間の頭が辮子《べんつう》でない。女なのだ。それが分かった時、小川君はそれまで交っていた危険と云う念が全く無くなって、好奇心が純粋の好奇心になったそうだ。これはさもありそうな事だね。※[#「にんべん+爾」、第3水準1−14−45]《にい》と声に力を入れて呼んで見たが、ただ慄えているばかりだ。小川君は※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]の上へ飛び上がった。女の肩に手を掛けて、引き起して、窓の方へ向けて見ると、まだ二十《はたち》にならない位な、すばらしい別品だったと云うのだ。」
 主人はまた間を置いて二人を見較べた。そしてゆっくり酒を一杯飲んだ。「これから先は端折《はしょ》って話すよ。これまでのような珍らしい話とは違って、いつ誰がどこで遣っても同じ事だからね。一体支那人はいざとなると、覚悟が好い。首を斬《き》られる時なぞも、尋常に斬られる。女は尋常に服従したそうだ。無論小川君の好嫖致《はおぴやおち》な所も、女の諦念《あきらめ》を容易ならしめたには相違ないさ。そこで女の服従したのは好いが、小川君は自分の顔を
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