。しかし中に人が這入っているとすると、外から磚が積んであるのが不思議だ。兎《と》に角《かく》拳銃《けんじゅう》が寝床に置いてあったのを、持って来れば好かったと思ったが、好奇心がそれを取りに帰る程の余裕を与えないし、それを取りに帰ったら、一しょにいる人が目を醒《さ》ますだろうと思って諦念めたそうだ。磚は造做もなく除けてしまった。窓へ手を掛けて押すとなんの抗抵もなく開く。その時がさがさと云う音がしたそうだ。小川君がそっと中を覗いて見ると、粟稈《あわがら》が一ぱいに散らばっている。それが窓に障《さわ》って、がさがさ云ったのだね。それは好いが、そこらに甑《かめ》のような物やら、籠《かご》のような物やら置いてあって、その奥に粟稈に半分|埋《うず》まって、人がいる。慥《たし》かに人だ。土人の着る浅葱色《あさぎいろ》の外套のような服で、裾《すそ》の所がひっくり返っているのを見ると、羊の毛皮が裏に附けてある。窓の方へ背中を向けて頭を粟稈に埋めるようにしているが、その背中はぶるぶる慄《ふる》えていると云うのだね。」
小川は杯を取り上げたり、置いたりして不安らしい様子をしている。平山はますます熱心に聞い
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