鼠坂
森鴎外
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)小日向《こびなた》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)突然|勾配《こうばい》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1−84−56]
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小日向《こびなた》から音羽《おとわ》へ降りる鼠坂《ねずみざか》と云う坂がある。鼠でなくては上がり降りが出来ないと云う意味で附けた名だそうだ。台町の方から坂の上までは人力車が通うが、左側に近頃《ちかごろ》刈り込んだ事のなさそうな生垣を見て右側に広い邸跡《やしきあと》を大きい松が一本我物顔に占めている赤土の地盤を見ながら、ここからが坂だと思う辺まで来ると、突然|勾配《こうばい》の強い、狭い、曲りくねった小道になる。人力車に乗って降りられないのは勿論《もちろん》、空車《からぐるま》にして挽《ひ》かせて降りることも出来ない。車を降りて徒歩で降りることさえ、雨上《あまあ》がりなんぞにはむずかしい。鼠坂の名、真に虚《むな》しからずである。
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