その外に立って聞いていると、物音はじき窓の内でしている。家の構造から考えて見ると、どうしても※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]《かん》の上なのだ。表から見える、土の暴露している※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]は、鉤《かぎ》なりに曲った※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]の半分で、跡の半分は積み上げた磚で隠れているものと思われる。物音のするのは、どうしてもその跡の半分の※[#「火+亢」、第4水準2−79−62]の上なのだ。こうなると、小川君はどうもこの窓の内を見なくては気が済まない。そこで磚を除《の》けて、突き上げになっている障子を内へ押せば好いわけだ。ところがその磚がひどくぞんざいに、疎《まばら》に積んであって、十ばかりも卸してしまえば、窓が開きそうだ。小川君は磚を卸し始めた。その時物音がぴったりと息《や》んだそうだ。」
小川は諦念《あきら》めて飲んでいる。平山は次第に熱心に傾聴している。上さんは油断なく酒を三人の杯に注いで廻る。
「小川君は磚を一つ一つ卸しながら考えたと云うのだね。どうもこれは塞《ふさ》ぎ切《きり》に塞いだものではない。出入口にしているらしい
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