スるべし。塵を蒙り、裂けやぶれたる皮靴を穿《は》き、膝を露《あらは》し、野の花を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]したる尖帽《せんばう》を戴けり。かれは跪《ひざまづ》きて僧の手に接吻し、我を顧みて、かゝる美しき童なれば、我のみかは、妻も喜びてもり育てんと誓ひぬ。マリウチア[#「マリウチア」に傍線]は財嚢を父にわたしつ。われ等四人はこれより寺に入りて、人々皆默祷す。われも共に跪きしが、祈祷の詞は出でざりき。我眼は久しき馴染《なじみ》の諸像を見たり。戸の上高きところを舟に乘りてゆき給ふ耶蘇、贄卓《にへづくゑ》の神の使、美しきミケル[#「ミケル」に傍線]はいふもさらなり、蔦かづらの環を戴きたる髑髏《どくろ》にも暇乞しつ。別に臨みて、フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]は手を我頭上に加へ、晩餐式施行法(モオドオ、ヂ、セルヰレ、ラ、サンクタ、メツサア)と題したる、繪入の小册子を贈《おく》りぬ。
既に別れて、ピアツツア、バルベリイニ[#「ピアツツア、バルベリイニ」に二重傍線]の街を過ぐとて、仰いで母上の住み給ひし家をみれば、窓といふ窓悉く開け放た
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