》なりき。髑髏は髑髏と接して壁を成し、壁はその並びざまにて許多《あまた》の小龕《せうがん》に分れたり。おほいなる龕には頭のみならで、胴をも手足をも具へたる骨あり。こは高位の僧のみまかりたるなり。かゝる骨には褐色の尖帽を被《き》せて、腹に繩を結び、手には一卷の經文若くは枯れたる花束を持たせたり。贄卓《にへづくゑ》、花形《はながた》の燭臺、そのほかの飾をば肩胛《かひがらぼね》、脊椎《せのつちぼね》などにて細工したり。人骨の浮彫《うきぼり》あり。これのみならず忌まはしくも、又趣なきはこゝの拵へざまの全體なるべし。僧は祈の詞を唱へつゝ行くに、われはひたと寄り添ひて從へり。僧は唱へ畢《をは》りていふやう。われも早晩《いつか》こゝに眠らむ。その時汝はわれを見舞ふべきかといふ。われは一語をも出すこと能はずして、僧と僧のめぐりなる氣味わるきものとを驚き※[#「目+台」、第3水準1−88−79]《み》たり。まことに我が如き穉子をかゝるところに伴ひ入りしは、いとおろかなる業《わざ》なりき。われはかしこにて見しものに心を動かさるゝこと甚しかりければ、歸りて僧の小房に入りしとき纔《わづか》に生き返りたるやうな
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