れ、人の目に立つべき創つけて、我等が群に入れよといふ。をぢ。否※[#二の字点、1−2−22]母親だに迂闊ならずば、今日を待たず、善き金の蔓となすべかりしものを。神の使のやうなる善き聲なり。法皇の伶人には恰好なる童なり。人々は我齡を算へ、我がために作《な》さでかなはぬ事を商量したり。その何事なるかは知らねど、善きことにはあらず。奈何《いかに》してこゝをば※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]《のが》れむ。われは穉心《をさなごころ》にあらん限りの智慧を絞り出しつ。固《もと》よりいづこをさして往かんと迄は、一たびも思ひ計らざりき。鋪板《ゆか》を這ひて窓の下にいたり、木片《きのきれ》ありしを踏臺にして窓に上りぬ。家は皆戸を閉ぢたり。街には人行絶えたり。※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1−92−56]るゝには飛びおるゝより外に道なし。されどそれも恐ろし。とつおいつする折しも、この挾き間の戸ざしに手を掛くる如き音したれば、覺えず窓縁《まどぶち》をすべりおちて、石垣づたひに地に墜《お》ちぬ。身は少し痛みしが、幸にこゝは草の上なりき。
跳ね起きて、いづくを宛《あて》ともなく、
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