揩ソ居れば、フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]の來給ふまで、決して他人に渡さじといふ。ペツポ[#「ペツポ」に傍線]怒りて、頑《かたくな》なる女かな、この木履もてそちが頭に、ピアツツア、デル、ポヽロ[#「ピアツツア、デル、ポヽロ」に二重傍線]の通衢《おほぢ》のやうなる穴を穿《あ》けんと叫びぬ。われは二人が間に立ちて、泣き居たるに、マリウチア[#「マリウチア」に傍線]は我を推しやり、をぢは我を引き寄せたり。をぢのいふやう。唯だ我に隨ひ來よ。我を頼めよ。この負擔だに我方にあらば、その報酬も受けらるべし。羅馬の裁判所に公平なる沙汰なからんや。かく云ひつゝ、強ひて我を※[#「てへん+止」、第3水準1−84−71]《ひ》きて戸を出でたるに、こゝには襤褸《ぼろ》着たる童《わらべ》ありて、一頭の驢《うさぎうま》を牽《ひ》けり。をぢは遠きところに往くとき、又急ぐことあるときは、枯れたる足を、驢の兩脇にひたと押し付け、おのが身と驢と一つ體になりたるやうにし、例の木履のかはりに走らするが常なれば、けふもかく騎《の》りて來しなるべし。をぢは我をも驢背《ろはい》に抱き上げたるに、かの童は後より一鞭
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