ェ中に、フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]はカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の野に羊飼へる、マリウチア[#「マリウチア」に傍線]が父母にあづけんといふ。盾銀二十は、牧者が上にては得易からぬ寶なれば、この兒を家におきて養ふはいふもさらなり、又心のうちに喜びて迎ふるならん。さはあれ、この兒は既に半ば出家したるものなり。カムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の野にゆきては、香爐を提げて寺中の職をなさんやうなし。かくマルチノ[#「マルチノ」に傍線]の心たゆたふと共に、フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]も云ふやう。われは此兒をカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]にやりて、百姓にせんこと惜しければ、この羅馬市中にて、然るべき人を見立て、これにあづくるに若《し》かずといふ。マルチノ[#「マルチノ」に傍線]思ひ定めかねて、僧たちと謀《はか》らんとて去《いぬ》る折柄、ペツポ[#「ペツポ」に傍線]のをぢは例の木履《きぐつ》を手に穿《は》きていざり來ぬ。をぢは母上のみまかり給ひしを聞き、又人の我に盾銀二十を貽《おく》りしを聞き、母上の追悼《くやみ》よりは、かの金の發落《なりゆき
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