アと、獨り此瀑布のみにはあらず。
導者はわれを顧みていふやう。昨年|英吉利《イギリス》人《びと》ひとり山賊に撃ち殺されしは、此巖の上にての事なりき。賊はサビノ[#「サビノ」に二重傍線]の山のものなりといへど、羅馬のテルニイ[#「テルニイ」に二重傍線]との間に出沒して、人その踪蹤《そうしよう》を審《つばら》にすること能はず。警吏は直ちに來りて、そが夥伴《なかま》なる三人を捕へき。われはその車上に縛せられて市《まち》に入るを見たり。市の門にはフルヰア[#「フルヰア」に傍線]の老女《おうな》立ち居たり。老女は天《あめ》の下の奇しき事どもを多く知れるものにて、世には法皇の府の僧官《カルヂナアレ》達も及ばざること遠しとぞいふ。その時老女の車上の賊に向ひて語りしは、何事にかありけん、例の怪しき詞なれば、傍聽《かたへぎき》せしものは辨《わきま》へ知らん由なかりき。さるを後には老女を彼賊の同類なりとし、ことし數人の賊と共に彼老女をさへ刎《は》ねて、ネピ[#「ネピ」に二重傍線]の石垣の上に梟《か》けたりと語りぬ。
妄想
自然と云ひ人事と云ひ、一として我心の憂を長ずる媒《なかだち》とならざる
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