tめる人の笑ひ樂みて日を送れるこそ神の惠ならめ。神は憫《あはれ》むべき人類のために、おそろしき地下のさまを掩ひ隱し給ふとおぼし。君は此水をすらおそろしと見給へども、ナポリ[#「ナポリ」に二重傍線]の市《まち》の地下のさまはいかなるべきか。此は水なり、彼は火なり。かしこの民は、沸き返る熔巖《ラワ》の釜の上に生涯を送れるなりと答へぬ。我又語を繼ぎて、ヱズヰオ[#「ヱズヰオ」に二重傍線]の火山の形、わが其|巓《いたゞき》に登りし時の事、エルコラノ[#「エルコラノ」に二重傍線]とポムペイ[#「ポムペイ」に二重傍線]との來歴など、姫に聞えまつりしに、姫は耳を傾け給ひて、館に還りての後、猶|大澤《たいたく》の彼方《あなた》の珍らしき事どもを語り聞せよと宣給ひぬ。
 姫は海のいかなるものなるを想ひ見ること能はずと宣給ふ。そは親しく海と云ふ者を觀給ひしは唯一たびにて、それさへ山の巓より、地平線を限れる一帶の銀色したる物を認め給ひしに過ぎざればなり。われは姫に告げて、まことの海原は我脚底に又一の碧空を視る如しと云ひしに、姫は手を組み合せて、神の此世界を飾り給ひしことの極みなく奇《く》しきをたゝへ給ひぬ。
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