アの時我は、その奇しく妙《たへ》なる世界を背にして、狹き尼寺の垣の内に籠らんとし給ふ御心こそ知られねと云はんと欲せしが、姫の思ひ給はん程のおぼつかなくて默《もだ》しつ。ある日姫と我等とは、荒れたる神巫寺《みこでら》の傍に立ちて雲霧の如く漲り下る二條の大瀑《たいばく》を下瞰《みおろ》したり。一道の白き水烟は、小暗《をぐら》き林木を穿ちて逆立し、その末は青き空氣の中に散じ、日光はこれに觸れて彩虹を現じ出せり。側なる小瀑《カスカテルラ》の上なる岩窟には、一群の鴿《はと》ありて巣を營みたり。その時ありて大いなる圈《わ》を畫きて、我等の脚下を飛ぶや、噴珠と共に亂れて、見る目まばゆき程なり。姫は歎賞すること久しうして、我に即興を求め給へり。われは平生|夢寐《むび》の間に往來する所の情の、終に散じ終に銷《せう》すること此飛泉と同じきを想ひて、忽ち歌ひ起していはく。人生の急湍《きふたん》は須臾《しゆゆ》も留まることなし。太陽同じく照すといへど、一滴一沫よりして見れば、その光を仰ぎその温を被らざるあり。惟《た》だ美妙の大光明は全景を覆ひ盡すのみと云ひぬ。姫は我歌を遮り留めて、止めよ、われは悲傷の詞を聞か
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