|リ[#「ナポリ」に二重傍線]の夢を喚び起すことを得たり。我は羅馬《ロオマ》の塵多き衢《ちまた》、焦げたるカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の野、汗流るゝ午景を背にせしを喜びて、人々の我を伴ひ給ひしを謝したり。
 小尼公の侍女と共に驢《うさぎうま》に騎《の》りてチヲリ[#「チヲリ」に二重傍線]の谷間に遊び給ふときは、我はこれに隨ひ行くことを許されたり。姫は頗る自然を愛する情に富みて、我に些の寫生を試みしめ給ひぬ。荒漠たるカムパニア[#「カムパニア」に二重傍線]の野の盡くるところに、聖彼得《サン、ピエトロ》寺の塔の湧出したる、橄欖の林、葡萄の圃《はたけ》の緑いろ濃く山腹を覆ひたる、瀑布幾條か漲《みなぎり》り墮《お》つる巖の上にチヲリ[#「チヲリ」に二重傍線]の人家の簇《むらが》りたるなど、皆かつがつ我筆に上りしなり。
 終の圖に筆を染むる時、姫の宣給《のたま》ふやう。かく麓より眺むれば、この落ちたぎつ水の勢は、早晩《いつか》巖石を穿ち碎き、押し流して、その上なる人家も底《そこひ》なき瀧壺に陷らずやと怖しく思はると宣給ふ。われ。まことに宜給ふ如し。されどそを憂へずして、彼家々に栖《す
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