ラからず褻《な》るべからざる所ありしに比ぶれば、固《もと》より及ぶべくもあらねど、かの捉へ難き過去の幻影には、最早この身近き現在の形相《ぎやうさう》を斥《しりぞ》くる力なかりしなり。
或時我は又サンタ[#「サンタ」に傍線]と對坐して語れり。夫人。近ごろポジリツポ[#「ポジリツポ」に二重傍線]の眺好き家と顏好き女とを尋ね給ひしか。われ。否、前後二たび往きしのみ。夫人。女は最早餘程おん身になじみしならん。子供は案内者に雇はれ、主人は漁《すなどり》に出でゝ在らざりしにはあらずや。用心し給へ、拿破里《ナポリ》の海の底は、やがて地獄なりといへば。われ。否、我心を引くものは唯景色のみなり。かの賤女《しづのめ》いかに美しとて、決して我を誘ひ寄すること能はざるべし。夫人。吾友よ、われは明におん身の心を知れり。曩《さき》にはその心に初戀の充※[#「牛+刃」、第4水準2−80−18]《きざ》したるため、些の餘地だになかりき。われは君が初戀を陋《いや》しとせざるべし。されどその敵手《あひて》なる女の、君の直きが如く直からざりしは、爭ふべからざる事實なるべし。否、我話の腰を折り給ふな。さてその初戀の眞の價《
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