ォこそめでたけれ。汝はアリチア[#「アリチア」に二重傍線]の婚禮とサヱルリ[#「サヱルリ」に傍線]侯との昔がたりを知るならん。壻《むこ》は卑しき農夫なりき。婦《よめ》は貧しき家の子ながら、美しき少女《をとめ》なりき。侯爵の殿は婚禮の筵《むしろ》にて新婦が踊の相手となり、宵の間にしばし花園に出でよと誘ひ給へり。壻この約を婦に聞きて、婦の衣裳を纏ひ、婦の面紗《おもぎぬ》を被りて出でぬ。好くこそ來つれと引き寄せ給ふ殿の胸には、匕首《あひくち》の刃深く刺されぬ。これは昔がたりなり。われも此の如き貴人を知りたり。そは某《なにがし》といふ伯爵の殿なりき。又此の如き壻を知りたり。唯だ婦は此の如く打明けて物言ふ性《さが》ならねば、新枕《にひまくら》の樂しさを殿に讓りて、おのれは新佛《しんぼとけ》の通夜することゝなりぬ。刃の詐《いつはり》多き胸を貫きし時、膚《はだへ》は雪の如くかゞやきぬとぞ語りし。
 わが心中には畏怖と憐愍と交※[#二の字点、1−2−22]《こも/″\》起りぬ。われは詞はなくて、若者の面を打まもりしに、若者又云ふやう。彼も一時なり。此も一時なり。われを女の肌知らぬものと思ひ給ふな。英吉
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