の使の童の顏を悉く記《おぼ》え、柱の上なるうねりたる摸樣を識り、瞑目したるときも、醜き龍と戰ひたる、美しき聖ミケル[#「ミケル」に傍線]を面前に見ることを得るやうになり、鋪床《ゆか》に刻みたる髑髏の、緑なる蔦かづらにて編みたる環を戴けるを見てはさま/″\の怪しき思をなしき。(聖ミケル[#「ミケル」に傍線]が大なる翼ある美少年の姿にて、惡鬼の頭を踏みつけ、鎗をその上に加へたるは、名高き畫なり。)

   美小鬟、即興詩人

 萬聖祭には衆人《もろひと》と倶《とも》に骨龕《ほねのほくら》にありき。こはフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]の嘗て我を伴ひて入りにしところなり。僧どもは皆經を誦《じゆ》するに、我は火伴《なかま》の童二人と共に、髑髏の贄卓《にへづくゑ》の前に立ちて、提香爐《ひさげかうろ》を振り動したり。骨もて作りたる燭臺に、けふは火を點したり。僧侶の遺骨の手足全きは、けふ額に新しき花の環を戴きて、手に露けき花の一束を取りたり。この祭にも、いつもの如く、人あまた集ひ來ぬ。歌ふ僧の「ミゼレエレ」(「ミゼレエレ、メイ、ドミネ」、主よ、我を愍《あはれ》み給へ、と唱へ出す加特力《
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