フラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]に聞きたる、種々なる獻身者の話によそへて、おのれ獻身者とならむをりの事をおもひ、世の人いかにおのれを責むとも、おのれは聖母のめぐみにて、つゆばかりも苦痛を覺えざるべしとおもひき。殊に願はしく覺えしは、フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]が故郷にたづねゆきて、かしこなる邪宗の人々をまことの道に歸依せしむる事なりき。
母上のいかにフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]と謀《はか》り給ひて、その日とはなりけむ。そはわれ知らでありしに、或る朝母上は、我に小《ちひさ》き衣を着せ、其上に白衣を打掛け給ひぬ。此白衣は膝のあたりまで屆きて、寺に仕ふる兒《ちご》の着るものに同じかりき。母上はかく爲立てゝ、我を鏡に向はせ給ひき。我は此日より尖帽宗《カツプチヨオ》の寺にゆきてちごとなり、火伴《なかま》の童達と共に、おほいなる弔香爐《つりかうろ》を提げて儀にあづかり、また贄卓《にへづくゑ》の前に出でゝ讚美歌をうたひき。總ての指圖をばフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]なしつ。われは幾程もあらぬに、小き寺のうちに住み馴れて、贄卓に畫きたる神
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