すがりて、兩膝にて我身をしかと挾み、いやがりて振り向かむとする頭を、やう/\胸の方へ引き寄せたり。われは少女が※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]したる銀の矢を拔きたるに、豐なる髮は波打ちて、我身をも、露《あらは》れたる少女が肩をも掩《おほ》はむとす。母上は室の隅に立ちて、笑みつゝマリウチア[#「マリウチア」に傍線]がなすわざを勸め勵まし給へり。この時フエデリゴ[#「フエデリゴ」に傍線]は戸の片蔭にかくれて、竊《ひそか》に此群をゑがきぬ。われは母上にいふやう。われは生涯妻といふものをば持たざるべし。われはフラア・マルチノ[#「フラア・マルチノ」に傍線]の君のやうなる僧とこそならめといひき。
 夕ごとにわが怪しく何の詞もなく坐したるを、母上は出家せしむるにたよりよき性《さが》なりとおもひ給ひき。われはかゝる時、いつも人となりたる後、金あまた得たらむには、いかなる寺、いかなる城をか建つべき、寺の主、城の主となりなん日には、「カルヂナアレ」の僧の如く、赤き衷甸《ばしや》に乘りて、金色に裝ひたる僕《しもべ》あまた隨へ、そこより出入せんとおもひき。或るときは又
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