諱sほしみせ》をしつらひて、もろ手さし伸べたる法皇授福の木板畫、念珠などを賣りたり。噴水の銀線は日にかゞやけり。柱弓《せりもち》の下には榻《たふ》あまた置きたるに、家の人も賓客も居ならびたり。群衆は忽ち寺門より漲《みなぎ》り出でたり。供養の儀式聲樂を見聞き、磔柱《たくちゆう》の鐵釘《てつてい》、長鎗などありがたき寶物を拜み得しなるべし。廣き十字街は人の頭の波打ちて、車は相倚りて隙間なき列をなせり。※[#「にんべん+倉」、第4水準2−1−77]父《さうふ》少童には石像の趺《だいいし》に攀《よ》ぢ上れるあり。全羅馬の生活《なりはひ》の脈は今此辻に搏動するかと思はる。既にして法皇の行列寺門を出づ。藍色の衣を纏へる僧六人に舁《か》かせたる、華美なる手輿《てごし》に乘りたるは法皇なり。若僧二人大なる孔雀《くじやく》の羽もて作りたる長柄の翳《えい》を取りて後に隨ひ、香爐搖り動かす童子は前に列びてぞゆく。輿に引き添ひて歩めるは
僧官《カルヂナアレ》達なり。行列の門を出づるや、樂隊は一齊に聲を揚ぐ。輿を大理石階の上に舁き上げて、法皇の姿廊の上に見ゆるを相圖として、廣き辻なる老若の群集は跪《ひざまづ》け
前へ 次へ
全674ページ中267ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング