ハ我を居らせて反映せしめんためにはあらずや。さるを我歌我詩は端《はし》なく彼君の心にかなひぬ。妬の心はこれより萌《きざ》せるならん。さて我を又姫に逢はせじとて、かくは我を脅しゝなるべし。幸にわれ好き機會を得て、今は姫との交いと深くなりぬ。姫は我を憐めり。加之《しかのみなら》ず姫は我戀を知りたり。かく思ひつゞけつゝ、我は枕に接吻せり。さるにても口惜しきは、わが意氣地なき性質なり。いかなれば我は先の日直ちに彼の無禮を責めざりしぞ。かの詞にはかく答ふべかりしなり。かの辱《はづかしめ》をばかく雪《そゝ》ぐべかりしなり。我血は湧き上りたり。無上の快樂に無比の慙恨打ち雜りて、我は睡ること能はざりしが、曉近くおもひの外に妥《おだやか》なる夢を結びぬ。
翌朝は夙《はや》く起き、管守を訪ひて預《あらかじ》めことわりおき、さて姫と媼とを急がせつゝ共にボルゲエゼ[#「ボルゲエゼ」に傍線]の館に往きぬ。
畫廊
畫廊はわが穉かりしとき、惠深き貴婦人の我を伴ひ往きて、おろかなる問、いまだしき感の我口より出で我言に發するごとに、面白しとて嬉《たのし》み笑ひ給ひしところにして、又わが獨り入りて遊び暮らし
前へ
次へ
全674ページ中257ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 鴎外 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング