Tところなれば、今アヌンチヤタ[#「アヌンチヤタ」に傍線]を導き往くことゝなりたる我胸には、言ひ知らず怪しき情漲り起れり。既に入りて畫を看れば、幅《ふく》ごとに舊知なるごとく思はる。されど姫は却りてこれを知ること我より深かりき。姫は生れながらの官能に養ひ得たる鑒識《かんしき》をさへ具へたれば、その妙處として指し示すところは悉く我を服せしめ、我にその神會《しんゑ》の尋常に非ざるを歎ぜしめたり。
 姫はジエラルドオ・デル・ノツチイ[#「ジエラルドオ・デル・ノツチイ」に傍線]の名ある作なるロオト[#「ロオト」に傍線](ソドム[#「ソドム」に二重傍線]に住みしハラン[#「ハラン」に傍線]の子)とその女兒との圖の前に立てり。われはをゝしき父の面、これに酒を勸むる樂しげなる少女の姿、暗く繁りあひたる木立のあなたに見ゆる夕映の空などめでたしと稱へしに、姫我ことばを遮《さへぎ》りて、げに/\奇なる才激せる情もて畫けるものと覺し、作者の筆の傅色《ふしよく》表情の一面は寔《まこと》に貴むべし、さるを此の如き題(ロオト[#「ロオト」に傍線]は其女子と通じたり)を選みしこそ心得られね、畫にも禮儀あり、品性あら
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