ーなる面持したる人肩|摩《す》るほどに集へり。歩まむとする人は、車と車との隙を行くより外すべなし。音樂の聲は四面より聞ゆ。車の内よりも「イル、カピタノ」(大尉)の歌洩りたり。陸に海に立てたる勳《いさをし》とぞ歌ふなる。腰に木馬を結びたる童あり。首と尾とのみ見えて、四足のところは膝かけの色ある巾《きれ》にて掩《おほ》はれたり。童の足二つにて、馬の足の用をなせるなり。かゝるものさへ車と車との間に入れば、混雜はまた一入《ひとしほ》になりぬ。われは楔《くさび》の如く車の間に介《はさ》まりて、後へも先へも行くこと叶はず。後なる車|挽《ひ》ける馬の沫《あわ》は我耳に漑《そゝ》げり。わがこれにえ堪へで、前なる車の踏板に飛び乘りたるを、これに乘れる寢衣《ねまき》着たる翁とやさしき花賣娘とは、早くも惡劇《いたづら》のためよりは避難のためと見て取りぬと覺しく、娘は輕く我手背を敲《たゝ》き、例の玉のつぶて二つ投げかけしのみなれど、翁の打つ飛礫《つぶて》は雨の如くなりき。娘もこの攻撃を興あることにや思ひけん、遂には翁の所爲に傚《なら》ひて、持てる籠の空《むな》しくならんとするをも厭はで唯だ打ちに打つ程に、我衣
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