ネるを、わが悟りしはかしこなり。彼廊に一室あり。そは最も小なる室にして、わが最も好める室なり。今若し君をかしこに在らしむることを得ば、君は能くわがむかしの喜を解し、又能くわが今日そを想起《おもひおこ》す喜を解し給はん。この八角に築きたる室には、實に全廊の尤物《いうぶつ》を擢《ぬきん》でゝ陳列せり。されどその尤物の皆けおさるるは、メヂチ[#「メヂチ」に傍線]のヱヌス[#「ヱヌス」に傍線]の石像あればなり。かくまでに生けるが如き石像をば、われこの外に見しことなし。その目は人を視る如し。あらず。人の心の底を觀る如し。石像の背後には、チチアノ[#「チチアノ」に傍線]の畫けるヱヌス[#「ヱヌス」に傍線]の油畫二幅を懸けたり。その色彩目を奪ふと雖《いへども》、こゝに寫し得たるは人間の美しさにして、彼石の現せるは天上の美しさなり。ラフアエロ[#「ラフアエロ」に傍線]がフオルナリイナ[#「フオルナリイナ」に傍線](作者意中の人)は心を動すに足らざるにあらず。されどヱヌス[#「ヱヌス」に傍線]の生けるをば、われあまたゝび顧みざること能はず。否々、おほよそ世に彫像多しと雖、いづれか彼ヱヌス[#「ヱヌス」に
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