歎かわしく思うだけです。勿論政略上|已《や》むことを得ない場合のあることは、僕だって認めています。」
「ロシアのような国では盛んに遣っているというじゃないか」と、山田が云った。
「そりゃあ caviar《カウィア》 にする」と、犬塚が厭《いや》らしい笑い顔をした。これも局長に聞いた詞であろう。
 山田は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》っている。
 木村は山田の顔を見て、気の毒がるような様子をした。そしてこう云った。
「あれは外国から這入る印刷物を検閲して、活版に使う墨で塗り消すことさ。黒くするからカウィアにするというのだろう。ところが今年は剪刀《はさみ》で切ったり、没収したりし出した。カウィアは片側で済むが、切り抜かれちゃ両面無くなる。没収せられればまるで無くなる。」
 山田は無邪気に笑った。
 暫く一同黙って弁当を食っていたが、山田は何か気に掛かるという様子で、また言い出した。
「あんな連中がこれから殖えるだろうか。」
「殖えられて溜《た》まるものか」と、犬塚は叱《しか》るように云って、特別に厚く切ってあるらしい沢庵《たくあん》を、白い、鋭い前歯で咬《か》み切っ
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