ちう》ちがいか物の賽《さい》を使うように、まかないがこの男の弁当箱には秘密の印を附けているなぞと云うものがある。
 木村は弁当を風炉鋪から出して、その風炉鋪を一応丁寧に畳《たた》んで、左のずぼんの隠しにしまった。そして弁当の蓋《ふた》を開けて箸《はし》を取るとき、犬塚が云った。
「とうとう恐ろしい連中《れんじゅう》の事が発表になっちまったね。」
 木村に言ったわけでもないらしいが、犬塚の顔が差し当り木村の方に向いているので、木村は箸を輟《や》めて、「無政府主義者ですか」と云った。
 木村の左に据わっている、山田というおとなしい男が詞《ことば》を挟んだ。この男はいつも毒にも薬にもならない事を言うが、思の外正直で情を偽らないらしいので、木村がいつか誰やらに、山田と話をするのは、胡坐《あぐら》を掻《か》いて茶漬を食っているようで好《い》いと云ったことがある。その山田がこう云った。
「どうも驚いちまった。日本にこんな事件が出来《しゅったい》しようとは思わなかった。一体どうしたというのだろう。」
 犬塚が教えて遣《や》るという口吻《こうふん》で答えた。「どうしたもこうしたもないさ。あの連中の目に
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