、平手で口を押さへて、笑声を漏さぬやうにしてゐる。ドルフはやう/\母親の背後に来て、「わあつ」と声を出しながら、鍋を覗いた。併しネルラは息子の来るのを知つてゐたので、すぐに蓋をして、振り返つて腰を屈めて礼をした。
 ドルフは笑つて云つた。「おつ母さん、駄目々々。わたしはちやあんと見ました。シツペの檀那のとこの古猫を掴まへて、魚蝋の蝋で煮てゐるのでせう。」
「さうだとも。今にあつちの焼鍋の方では、鼠を焼いて食べさせます。もうわたしに構はないで食事を拵へておくれ。」
 ドルフはこそ/\部屋に附いてゐる板囲の中へ逃げ込んだ。そして糊の附いた上シヤツを上衣《うはぎ》の上へはおつて、シヤツの裾を振り廻しながら出て来た。母親はふいと振り向いて見て、腰に両手を支へて笑つてゐたが、目からは涙が出て来た。リイケは一しよに笑ひながら手を拍つた。親爺は独り笑はずにゐたが、つと立つて棚から皿を卸して、白シヤツで拭き出した。ネルラ婆あさんはとう/\椅子の上に腰を卸して、苦しくなるまで笑つた。
 食事は出来た。水に映つた月のやうに皿が光る。錫のフオオクが本銀のやうに赫く。
 婆あさんが最後に蓋を切つて味を見て、そ
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