つた女だと云ふことが知れた。
「さあ/\これからお菓子を拵へるのだ。」婆あさんは先に立つて、ドルフの買つて来た物を蒸鍋《むしなべ》に入れて、杓子で掻き交ぜはじめた。袖を高くたくし上げて、茶色の腕を出して、甲斐々々しく交ぜるのである。交ぜてしまふと、蒸鍋を竈の傍に据ゑて、上に切れを掛けて置く。爺いさんは焼鍋《やきなべ》を出して、玉葱でこすつて、一寸火に掛けて温める。ドルフとリイケとは林檎を剥いて、心を除《の》けて輪切にしてゐる。
 此の時婆あさんが今一つの蒸鍋を出して、水に、粉に、チミアンに、ロオレルと其中へ入れてゐたが、最後に何やらこつそり出して、人に隠すやうに入れて、急いで蓋をして、火に掛けた。
 ドルフは何を入れたのか見えなかつたので、第二の蒸鍋の蓋が躍つて、茶色の蒸気が立ち出すや否や、鼻を鍋の方へ向けて、胡桃《くるみ》が這入る程鼻の孔を大きくして嗅いでゐた。併しどうも分からなかつた。そのうち母親が蓋を取つて見さうにするので、ドルフは足を翹《つまだ》てて背後《うしろ》へ窺ひ寄つた。屈んだり、伸び上がつたり、わざと可笑《をか》しい風をして近寄つたのである。リイケは横目でそれを見ながら
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