を買つて来てくれる筈なのだよ。」
がつしりした体の男が、此部屋の赤み掛かつた薄暗がりの中へ這入つて来た。物を打ち明けたやうな、笑《ゑ》ましげな顔をしてゐる。頭は殆ど天井に届きさうである。「おつ母さん、唯今。」
男は帽子を部屋の隅に投げ遣つて、所々の隠しの中から、細心に注意して種々の物を取り出して、それを卓の上に並べてゐる。
やつと並べてしまふと、母が云つた。「ドルフや。牛乳を忘れやしないかと思つたが、矢つ張り忘れたね。」
ドルフは首を肩の間へ引つ込ませて、口を開《あ》いて、上下《うへした》の歯の間から舌の尖を見せて、さも当惑したらしい様子をした。又桟橋を渡つて買ひに往かなくてはならぬかと云ふ当惑である。併しこれと同時に、ドルフはそつとリイケに目食はせをした。これは笑談だと云ふ知らせの目食はせである。
母はそれには気が附かずに、右の拳《こぶし》で左の掌を打つて云つた。「ドルフや。牛乳なしではどうにもしようがないね。わたしが町まで往かなくてはなるまいね。ほんに、お前のやうな大男を子に持つてゐて、これでは。」
「まあ、お待なさいよ。今わたしがリイケの椅子の下から、魔法で牛乳を出した
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