れた櫂のやうに光る白歯が見える。哀しい追憶を隠す、重い帷《たれぬの》が開くやうに、眉の間の皺が展《の》びる。水から引き上げた網の所々《しよ/\》に白魚が光つてゐるやうに、肌の隅々から、喜が赫き出す。そんな時には、リイケはドルフの目をぢつと見て、手を拍つて笑ふのである。
今の処では此女の両方の頬が、炉の隙間を漏る火の光で、干鮭の切身のやうに染まつてゐる。そして手為事《てしごと》を見詰めてゐる、黒い目が灰の間から赫く炭火のやうに光つてゐる。併し光つてゐるのはそればかりでは無い。耳輪の金と約束の指輪の銀とも光るのである。
姑《しうとめ》は折々気を附ける。「お前らくにしてお出かい。足が冷えはしないかい。」穿いてゐるのは、藁を内側に附けた木沓《きぐつ》である。
「おつ母さん。難有うよ。わたくしこれでお妃様《きさきさま》のやうな心持でゐますの。」
「なんだつて。あのお妃様のやうだつて。まあ、お待よ。今にわたしが林檎を入れたお菓子を焼いて食べさせて上げるからね。その時どんなにおいしいか、どんなに好い心持がするか、その時さう云つてお聞せ。おや。ドルフが桟橋を渡つて来るやうだよ。粉と、玉子と、牛乳と
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