−2]児を塗つた雨外套、為事着《しごとぎ》、長靴、水を透さない鞣革の帽子、羊皮の大手袋などが弔つてある。マドンナの画額《ゑがく》の上の輪飾になつてゐるのは玉葱である。懸時計の下に掛けてあるのは、腮《あご》を貫《ぬ》き通した二十匹ばかりの鯡《にしん》で、腹が銅色《あかがねいろ》に光つてゐる。
 この一切の景物《けいぶつ》は皆黄いろい蝋燭の火で照し出されてゐる。大きい影を天井に印《いん》してゐる蝋燭の火である。併しこんな物よりは若いよめのリイケの方が余程目を悦ばせる。広い肩、円い項《うなじ》、丈夫な手、ふつくりして日に焼けた頬、天鵝絨《びろうど》のやうに柔い目、きつと結んだ、薄くない唇、それに背後《うしろ》で六遍巻いてある、濃い、黒い髪。どこを見ても目を悦ばせるには十分である。併し此女の表情は亭主のドルフが傍にゐる時と、ゐない時とで違ふ。ゐない時は、やさしく、はにかんでゐるかと思ふと、なぜと云ふこともなく度々陰気な物案じに陥いる。ドルフが出てさへ来れば、情《じやう》のある口の両脇に二本の※[#「衣へんに、辟」、144−上−2]《ひだ》が出来て、上唇を上へ弔り上げる。そして水を離れて日に照さ
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