たじゃろ」
「それじゃ。半日に童の行く道は知れたものじゃ。続け」と言って三郎は取って返した。
松明《たいまつ》の行列が寺の門を出て、築泥《ついじ》の外を南へ行くのを、鐘楼守は鐘楼から見て、大声で笑った。近い木立ちの中で、ようよう落ち着いて寝ようとした鴉《からす》が二三羽また驚いて飛び立った。
――――――――――――
あくる日に国分寺からは諸方へ人が出た。石浦に往ったものは、安寿の入水《じゅすい》のことを聞いて来た。南の方へ往ったものは、三郎の率いた討手が田辺まで往って引き返したことを聞いて来た。
中二日おいて、曇猛律師が田辺の方へ向いて寺を出た。盥《たらい》ほどある鉄の受糧器を持って、腕の太さの錫杖《しゃくじょう》を衝いている。あとからは頭を剃りこくって三|衣《え》を着た厨子王《ずしおう》がついて行く。
二人は真昼に街道を歩いて、夜は所々の寺に泊った。山城の朱雀野《しゅじゃくの》に来て、律師は権現堂に休んで、厨子王に別れた。「守本尊を大切にして往け。父母の消息はきっと知れる」と言い聞かせて、律師は踵《くびす》を旋《めぐら》した。亡くなった姉と同じことを言う坊様だ
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