起とうとしたとき、二郎がかたわらから呼び止めた。そして父に言った。「おっしゃる通りに童《わらべ》どもを引き分けさせてもよろしゅうございますが、童どもは死んでも別れぬと申すそうでございます。愚かなものゆえ、死ぬるかも知れません。苅る柴はわずかでも、汲む潮はいささかでも、人手を耗《へ》らすのは損でございます。わたくしがいいように計らってやりましょう」
「それもそうか。損になることはわしも嫌いじゃ。どうにでも勝手にしておけ」大夫はこう言って脇へ向いた。
二郎は三の木戸に小屋を掛けさせて、姉と弟とを一しょに置いた。
ある日の暮れに二人の子供は、いつものように父母のことを言っていた。それを二郎が通りかかって聞いた。二郎は邸を見廻って、強い奴が弱い奴を虐《しえた》げたり、諍《いさか》いをしたり、盗みをしたりするのを取り締まっているのである。
二郎は小屋にはいって二人に言った。「父母は恋しゅうても佐渡は遠い。筑紫はそれよりまた遠い。子供の往かれる所ではない。父母に逢いたいなら、大きゅうなる日を待つがよい」こう言って出て行った。
ほど経てまたある日の暮れに、二人の子供は父母のことを言っていた。
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