それを今度は三郎が通りかかって聞いた。三郎は寝鳥を取ることが好きで邸のうちの木立ち木立ちを、手に弓矢を持って見廻るのである。
 二人は父母のことを言うたびに、どうしようか、こうしようかと、逢いたさのあまりに、あらゆる手立てを話し合って、夢のような相談をもする。きょうは姉がこう言った。「大きくなってからでなくては、遠い旅が出来ないというのは、それは当り前のことよ。わたしたちはその出来ないことがしたいのだわ。だがわたしよく思ってみると、どうしても二人一しょにここを逃げ出しては駄目なの。わたしには構わないで、お前一人で逃げなくては。そしてさきへ筑紫の方へ往って、お父うさまにお目にかかって、どうしたらいいか伺うのだね。それから佐渡へお母さまのお迎えに往くがいいわ」三郎が立聞きをしたのは、あいにくこの安寿の詞《ことば》であった。
 三郎は弓矢を持って、つと小屋のうちにはいった。
「こら。お主《ぬし》たちは逃げる談合をしておるな。逃亡の企てをしたものには烙印《やきいん》をする。それがこの邸の掟じゃ。赤うなった鉄は熱いぞよ。」
 二人の子供は真《ま》っ蒼《さお》になった。安寿は三郎が前に進み出て言っ
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