》と、木の椀《まり》に入れた湯との二人前をも受け取った。※[#「飮のへん+亶」、第3水準1−94−10]は塩を入れて炊《かし》いである。
姉と弟とは朝餉《あさげ》を食べながら、もうこうした身の上になっては、運命のもとに項《うなじ》を屈《かが》めるよりほかはないと、けなげにも相談した。そして姉は浜辺へ、弟は山路をさして行くのである。大夫が邸の三の木戸、二の木戸、一の木戸を一しょに出て、二人は霜を履《ふ》んで、見返りがちに左右へ別れた。
厨子王が登る山は由良《ゆら》が嶽《たけ》の裾《すそ》で、石浦からは少し南へ行って登るのである。柴を苅る所は、麓《ふもと》から遠くはない。ところどころ紫色の岩の露《あら》われている所を通って、やや広い平地に出る。そこに雑木が茂っているのである。
厨子王は雑木林の中に立ってあたりを見廻した。しかし柴はどうして苅るものかと、しばらくは手を着けかねて、朝日に霜の融《と》けかかる、茵《しとね》のような落ち葉の上に、ぼんやりすわって時を過した。ようよう気を取り直して、一枝二枝苅るうちに、厨子王は指を傷《いた》めた。そこでまた落ち葉の上にすわって、山でさえこんなに
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