から、わざわざ連れて来させてみれば、色の蒼《あお》ざめた、か細い童《わらわ》どもじゃ。何に使うてよいかは、わしにもわからぬ」
そばから三郎が口を出した。末の弟ではあるが、もう三十になっている。「いやお父っさん。さっきから見ていれば、辞儀をせいと言われても辞儀もせぬ。ほかの奴のように名のりもせぬ。弱々しゅう見えてもしぶとい者どもじゃ。奉公初めは男が柴苅《しばか》り、女が汐汲《しおく》みときまっている。その通りにさせなされい」
「おっしゃるとおり、名はわたくしにも申しませぬ」と、奴頭が言った。
大夫は嘲笑《あざわら》った。「愚か者と見える。名はわしがつけてやる。姉はいたつきを垣衣《しのぶぐさ》、弟は我が名を萱草《わすれぐさ》じゃ。垣衣は浜へ往って、日に三|荷《が》の潮を汲め。萱草は山へ往って日に三荷の柴を刈れ。弱々しい体に免じて、荷は軽うして取らせる」
三郎が言った。「過分のいたわりようじゃ。こりゃ、奴頭。早く連れて下がって道具を渡してやれ」
奴頭は二人の子供を新参小屋に連れて往って、安寿には桶《おけ》と杓《ひさご》、厨子王には籠《かご》と鎌《かま》を渡した。どちらにも午餉《ひるげ
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