った大廈《おおいえ》の奥深い広間に一間四方の炉を切らせて、炭火がおこしてある。その向うに茵《しとね》を三枚|畳《かさ》ねて敷いて、山椒大夫は几《おしまずき》にもたれている。左右には二郎、三郎の二人の息子が狛犬《こまいぬ》のように列《なら》んでいる。もと大夫には三人の男子があったが、太郎は十六歳のとき、逃亡を企てて捕えられた奴《やっこ》に、父が手ずから烙印《やきいん》をするのをじっと見ていて、一言も物を言わずに、ふいと家を出て行くえが知れなくなった。今から十九年前のことである。
奴頭《やっこがしら》が安寿、厨子王を連れて前へ出た。そして二人の子供に辞儀をせいと言った。
二人の子供は奴頭の詞《ことば》が耳に入らぬらしく、ただ目をみはって大夫を見ている。今年六十歳になる大夫の、朱を塗ったような顔は、額が広く※[#「月+咢」、第3水準1−90−51]《あご》が張って、髪も鬚《ひげ》も銀色に光っている。子供らは恐ろしいよりは不思議がって、じっとその顔を見ているのである。
大夫は言った。「買うて来た子供はそれか。いつも買う奴《やっこ》と違うて、何に使うてよいかわからぬ、珍らしい子供じゃという
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