二人がおさないのに、体もか弱く見えるので、なかなか買おうと言うものがない。たまに買い手があっても、値段の相談が調《ととの》わない。宮崎は次第に機嫌を損じて、「いつまでも泣くか」と二人を打つようになった。
 宮崎が舟は廻り廻って、丹後の由良《ゆら》の港に来た。ここには石浦というところに大きい邸《やしき》を構えて、田畑に米麦を植えさせ、山では猟《かり》をさせ、海では漁《すなどり》をさせ、蚕飼《こがい》をさせ、機織《はたおり》をさせ、金物、陶物《すえもの》、木の器、何から何まで、それぞれの職人を使って造らせる山椒大夫《さんしょうだゆう》という分限者《ぶげんしゃ》がいて、人なら幾らでも買う。宮崎はこれまでも、よそに買い手のない貨《しろもの》があると、山椒大夫がところへ持って来ることになっていた。
 港に出張っていた大夫の奴頭《やっこがしら》は、安寿、厨子王をすぐに七貫文に買った。
「やれやれ、餓鬼《がき》どもを片づけて身が軽うなった」と言って、宮崎の三郎は受け取った銭を懐《ふところ》に入れた。そして波止場の酒店にはいった。

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 一抱えに余る柱を立て並べて造
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