あるから、縁故があるに相違なからうとの事であつた。
 わたくしは延《ひ》かれて位牌の前に往つた。壽阿彌の位牌には、中央に東陽院壽阿彌陀佛曇※[#「大/周」、第3水準1−15−73]和尚、嘉永元年|戊申《ぼしん》八月二十九日と書し、左右に戒譽西村清常居士、文政三年|庚寅《かういん》十二月十二日、松壽院妙眞日實信女、文化十二年|乙亥《おつがい》正月十七日と書してある。
 僧は「こちらが谷の音です」と云つて、隣の位牌を指さした。神譽行義居士、明治二十一年十二月二日と書してある。
「藤井紋太夫のもありますか」と、わたくしは問うた。
「紋太夫の位牌はありません。誰も參詣《さんけい》するものがないのです。しかしこちらに戒名が書き附けてあります。」かう云つて紙牌を示した。光含院孤峯心了居士、元祿七年|甲戌《かふじゆつ》十一月二十三日と書してある。
「では壽阿彌と谷の音とは參詣するものがあるのですね」と、わたくしは問うた。
「あります。壽阿彌の方へは牛込の藁店《わらだな》からお婆あさんが命日毎に參られます。谷の音の方へは、當主の關口文藏さんが福島にをられますので、代參に本所緑町の關重兵衞さんが來られま
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