がある。そんな時は、傍に母の寢てゐぬのに氣が附いて、最初に四歳になる初五郎が目を醒ます。次いで六歳になるとくが目を醒ます。女房は子供に呼ばれて床にはいつて、子供が安心して寢附くと、又大きく目をあいて溜息を衝いてゐるのであつた。それから二三日立つて、やう/\泊り掛けに來てゐる母に繰言を言つて泣くことが出來るやうになつた。それから丸二年程の間、女房は器械的に立ち働いては、同じやうに繰言を言ひ、同じやうに泣いてゐるのである。
高札の立つた日には、午過ぎに母が來て、女房に太郎兵衞の運命の極まつたことを話した。しかし女房は、母の恐れた程驚きもせず、聞いてしまつて、又いつもと同じ繰言を言つて泣いた。母は餘り手ごたへのないのを物足らなく思ふ位であつた。此時長女のいちは、襖の蔭に立つて、おばあ樣の話を聞いてゐた。
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桂屋にかぶさつて來た厄難と云ふのはかうである。主人太郎兵衞は船乘とは云つても、自分が船に乘るのではない。北國通ひの船を持つてゐて、それに新七と云ふ男を乘せて、運送の業を營んでゐる。大阪では此太郎兵衞のやうな男を居船頭と云つてゐた。居船頭の太
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