やく》を従えて着座する。
同心《どうしん》らが三道具《みつどうぐ》を突き立てて、いかめしく警固している庭に、拷問に用いる、あらゆる道具が並べられた。そこへ桂屋大郎兵衛の女房と五人の子供とを連れて、町年寄《まちどしより》五人が来た。
尋問は女房から始められた。しかし名を問われ、年を問われた時に、かつがつ返事をしたばかりで、そのほかの事を問われても、「いっこうに存じませぬ」、「恐れ入りました」と言うよりほか、何一つ申し立てない。
次に長女いちが調べられた。当年十六歳にしては、少し幼く見える、痩肉《やせじし》の小娘である。しかしこれはちとの臆《おく》する気色《けしき》もなしに、一部始終の陳述をした。祖母の話を物陰から聞いた事、夜になって床《とこ》に入《い》ってから、出願を思い立った事、妹まつに打ち明けて勧誘した事、自分で願書《がんしょ》を書いた事、長太郎が目をさましたので同行を許し、奉行所の町名を聞いてから、案内をさせた事、奉行所に来て門番と応対し、次いで詰衆《つめしゅう》の与力《よりき》に願書の取次を頼んだ事、与力らに強要せられて帰った事、およそ前日来経歴した事を問われるままに、はっ
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