にした。情偽があろうかという、佐佐の懸念ももっともだというので、白州《しらす》へは責め道具を並べさせることにした。これは子供をおどして実を吐かせようという手段である。
ちょうどこの相談が済んだところへ、前の与力《よりき》が出て、入り口に控えて気色《けしき》を伺った。
「どうじゃ、子供は帰ったか」と、佐佐が声をかけた。
「御意《ぎょい》でござりまする。お菓子をつかわしまして帰そうといたしましたが、いちと申す娘がどうしてもききませぬ。とうとう願書《がんしょ》をふところへ押し込みまして、引き立てて帰しました。妹娘はしくしく泣きましたが、いちは泣かずに帰りました。」
「よほど情《じょう》のこわい娘と見えますな」と、太田が佐佐を顧みて言った。
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十一月二十四日の未《ひつじ》の下刻《げこく》である。西町奉行所の白州《しらす》ははればれしい光景を呈している。書院《しょいん》には両奉行が列座する。奥まった所には別席を設けて、表向きの出座《しゅつざ》ではないが、城代が取り調べの模様をよそながら見に来ている。縁側には取り調べを命ぜられた与力が、書役《かき
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