ら左へ三人|並《なら》んだ。上々官|金僉知《きんせんち》、朴僉知《ぼくせんち》、喬僉知《きょうせんち》の三人はいずれも広縁に並んで拝をした。ここでは別に書類を捧呈《ほうてい》することなどはない。茶も酒も出されない。しばらくして上《かみ》の使三人がまた二度半の拝をすると、上々官三人も縁でまた拝をした。上々官の拝がすんでから、上の使の三人は上々官をしたがえて退出した。
 家康は六人の朝鮮人の後影《うしろかげ》を見送って、すぐに左右を顧《かえり》みて言った。
「あの縁にいた三人目の男を見知ったものはないか」
 側には本多正純を始めとして、十余人の近臣がいた。案内して来た宗もまだ残っていた。しかし意味ありげな大御所のことばを聞いて、皆《みな》しばらくことばを出さずにいた。ややあって宗が危ぶみながら口を開いた。
「三人目は喬僉知《きょうせんち》と申しまするもので」
家康は冷やかに一目見たきりで、目を転じて一座を見渡《みわた》した。
「誰も覚えてはおらぬか。わしは六十六になるが、まだめったに目くらがしは食わぬ。あれは天正《てんしょう》十一年に浜松《はままつ》を逐電《ちくてん》した時二十三|歳《さい
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