郎が入れた男で、二十歳になる。下請宿《したうけやど》は若狭屋《わかさや》亀吉である。表小使亀蔵が部屋を改めて見れば、山本の外四人の金部屋役人に、それぞれ宛てた封書があって、中は皆白紙である。
 察するに亀蔵は、早晩泊番の中の誰《たれ》かを殺して金を盗もうと、兼《かね》て謀《はか》っていたのであろう。奥羽《おうう》その外の凶歉《きょうけん》のために、江戸は物価の騰貴した年なので、心得違《こころえちがえ》のものが出来たのであろうと云うことになった。天保四年は小売米《こうりまい》百文に五合五勺になった。天明《てんめい》以後の飢饉年《ききんどし》である。
 医師が来て、三右衛門に手当をした。
 親族が駆け附けた。蠣殻町の中邸から来たのは、三右衛門の女房と、伜宇平とである。宇平は十九歳になっている。宇平の姉りよは細川|長門守興建《ながとのかみおきたけ》の奥に勤めていたので、豊島町《としまちょう》の細川邸から来た。当年二十二歳である。三右衛門の女房は後添《のちぞい》で、りよと宇平とのためには継母である。この外にまだ三右衛門の妹で、小倉新田《こくらしんでん》の城主|小笠原備後守貞謙《おがさわらびんご
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