》の寺に、勧善寺と云うのがある。そこへ二十歳前後の若い僧が来て、棒を指南していると云うのである。一行は又長崎行の舟に乗った。
長崎に着いたのは十一月八日の朝である。舟引地町《ふなひきじまち》の紙屋と云う家に泊って、町年寄《まちどしより》福田某に尋人《たずねにん》の事を頼んだ。ここで聞けば、勧善寺の客僧はいよいよ敵らしく思われる。それは紀州|産《うまれ》のもので、何か人目を憚《はばか》るわけがあると云って、門外不出で暮していると云うのである。親切な町年寄は、若し取り逃がしてはならぬと云って、盗賊方二|人《にん》を同行させることにした。町で剣術師範をしている小川某と云うものも、町年寄の話を聞いて、是非その場に立ち会って、場合に依っては助太刀がしたいと申し込んだ。
九郎右衛門、宇平の二人は、大村家の侍で棒の修行を懇望《こんもう》するものだと云って、勧善寺に弟子入の事を言い入れた。客僧は承引して、あすの巳《み》の刻に面会しようと云った。二人は喜び勇んで、文吉を連れて寺へ往く。小川と盗賊方の二人とは跡に続く。さて文吉に合図を教えて客僧に面会して見ると、似も寄らぬ人であった。ようようその場を取
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