細川家の邸をさして駆けて行ったが、もう豊島町は火になっていた。「あぶないあぶない」「姉さん火の中へ逃げちゃあいけねえ」などと云うものがある。とうとう避難者や弥次馬《やじうま》共の間に挟《はさ》まれて、身動《みうごき》もならぬようになる。頭の上へは火の子がばらばら落ちて来る。りよは涙ぐんで亀井町の手前から引き返してしまった。内へはもう叔父が浜町から帰って、荷物を片附けていた。
浜町も矢の倉に近い方は大部分焼けたが、幸《さいわい》に酒井家の添邸は焼け残った。神戸家へ重々《かさねがさね》世話になるのは気の毒だと云うので、宇平一家はやはり遠い親戚に当る、添邸の山本平作方へ、八日の辰《たつ》の刻過に避難した。
三右衛門が遺族は山本平作方の部屋を借りて、夢の中で夢を見るような心持になって、ぼんやりしている。未亡人は頭痛が起って寝たきりである。宇平は腕組をして何やら考え込む。只《ただ》りよ一人平作の家族に気兼《きがね》をしながら、甲斐々々《かいがい》しく立ち働いていたが、午頃《ひるごろ》になって細川の奥方の立退所《たちのきじょ》が知れたので、すぐに見舞に往った。
晩にりよが帰ると九郎右衛門が
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