の方の間取を見た。こちらは西の詰《つめ》が小さい間《ま》になっている。その次が稍《や》や広い。この二間が表側の床の間のある座敷の裏になっている。表側の次の間と玄関との裏が、半ば土間になっている台所である。井戸は土間の隅に掘ってある。
 縁側に出て見れば、裏庭は表庭の三倍位の広さである。所々に蜜柑《みかん》の木があって、小さい実が沢山|生《な》っている。縁に近い処には、瓦《かわら》で築いた花壇があって、菊が造ってある。その傍《そば》に円石《まるいし》を畳んだ井戸があって、どの石の隙間《すきま》からも赤い蟹《かに》が覗《のぞ》いている。花壇の向うは畠《はたけ》になっていて、その西の隅に別当部屋の附いた厩《うまや》がある。花壇の上にも、畠の上にも、蜜柑の木の周囲《まわり》にも、蜜蜂《みつばち》が沢山飛んでいるので、石田は大そう蜜蜂の多い処だと思って爺さんに問うて見た。これは爺さんが飼っているので、巣は東側の外壁に弔《つ》り下げてあるのであった。
 石田はこれだけ見て、一旦《いったん》爺さんに別れて帰ったが、家はかなり気に入ったので、宿屋のお上《かみ》さんに頼んで、細かい事を取り極めて貰って、
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