て来た。そして百日紅の植わっている庭の方の雨戸が疎《まば》らに締まっているのを、がらがらと繰り開けた。庭は内から見れば、割合に広い。爺さんは生垣を指ざして、この辺は要塞《ようさい》が近いので石塀《いしべい》や煉瓦塀《れんがべい》を築くことはやかましいが、表だけは立派にしたいと思って問い合わせてみたら、低い塀は築いても好いそうだから、その内都合をしてどうかしようと思っていると話した。
表通は中《ちゅう》くらいの横町で、向いの平家の低い窓が生垣の透間《すきま》から見える。窓には竹簾《たけすだれ》が掛けてある。その中で糸を引いている音がぶうんぶうんとねむたそうに聞えている。
石田は座布団を敷居の上に敷いて、柱に靠《よ》り掛かって膝《ひざ》を立てて、ポッケットから金天狗《きんてんぐ》を出して一本吸い附けた。爺さんは縁端にしゃがんで何か言っていたが、いつか家の話が家賃の話になり、家賃の話が身の上話になった。この薄井という爺さんは夫婦で西隣に住んでいる。遅く出来た息子が豊津の中学に入れてある。この家を人に貸して、暮しを立てて倅《せがれ》の学資を出さねばならないということである。
それから裏側
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